1.「安楽死」の実態調査に関しては、日本の約1000の緩和医療関係者に対して昨年行った「安楽死」についての調査結果に基づいてすでに論考を完成させ、現在英米系の雑誌に投稿のために審査を受けている段階である。日本国内での医療関係者に対する「安楽死」についてのインタビューによる調査は研究時間の関係上今年度は行えなかった。 2.「安楽死」を正当化しうる理論についての批判的研究に関しては、現代の人権論を手がかりにして考察を試みた。すなわち、末期患者が「安楽死」を求める権利を、欧米における「人権」論の歴史的潮流の中に位置づけ、その「人権」自体の多義性・多元性を析出すると同時に、それを制約する現代的な諸要因を考察した。その成果は「人権概念の変容」(「研究発表」の項目に記載した論文を参照)に発表した。そこでは、「安楽死」請求権を制約する要因として、「安楽死」に関する生命倫理規範以外に、「人権」一般の制約要因としての、社会や共同体などの共通善、および社会構造化されたジェンダー(性差)をとりあげ、それら制約諸要因との複合的構造関係の中で「人権」(その一つとして「安楽死請求権」)が位置づけられるという視点を提示した。 3.海外の諸制度についての調査に関しては、「本人の要請による安楽死」を法制度化している米国・オレゴン州の州都Salemへ調査に行き、立法関係の資料を収集すると同時に、すでに過去2年間の「本人の要請による安楽死」実施状況のデータを行政当局から得た。また、激しい「安楽死」論争の結果、結局法制化に至らなかったカナダの首都Ottawaにおいても、立法府での議論資料を収集した。
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