本研究は、多様な「死の迎え方」の中で、とくにいわゆる「安楽死」が受容される状況が医療現場にあるのか否かを、そして法理論的にはそれを正当化できる可能性があるのか否かを、さらにそのような可能性がある場合には、その正当化の原理は何かを、インタビューおよび法制度の調査などによる実態調査を基礎におきつつ、とくに英米圏の研究を手がかりにして、現時点での一定の理論を構築しようとするものである。 1.「安楽死」の実態調査に関しては、日本の約1000の緩和医療関係者に対して「安楽死」についてのアンケート調査およびインタビューをおこなった。特にオランダとオーストラリアで実施されたアンケート調査と同一の質問事項によって、日本の医療現場での安楽死への態度に関する特質が浮かび上がった。とくに患者の家族に対する医療者側の配慮が重要な要因として働いていること、および日本の特に看護婦が「安楽死」に消極的であることが見いだされた。 2.「安楽死」を正当化しうる理論に関しては、まず、「安楽死」の実態調査から浮かび上がってきた家族の関与と家族に対する医療者側の配慮を取り込みうる理論構築の必要性が認識された。これは、西欧型の個人主義的な自己決定論の限界を示すものであり、安楽死に関して、「自己決定基底的正当化理論」とは異なる視座に基づく「家族基底的正当化理論」の可能性及び必要性を示唆するものである。他方、この特質は、日本に限らず、東アジア全般に言えることではないかという仮説の下、西欧とは異なる地域の文化的特殊性を考慮する視座の必要性を認識させた。 3.今後、この「家族基底的正当化理論」の東アジアでの適用可能性を実証する研究への端緒として韓国の研究者との交流を進め、共同研究に着手した。
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