本年度は外国人の人権にかかわって、(1)入国の自由、在留期間更新、再入国、出国、私生活の自由・プライバシー権、(2)選挙権・公務就任権を研究するにとどまった。(1)では、消極主義Iのテクニックとし2つ、消極主義IIのテクニックとして8つ、積極主義Iのテクニックとして1つのテクニックを抽出した。支配的パラダイムは、(a)現在の国際社会は国家の主権の存在を前提とし、国家の構成員である国民と構成員でない外国人との間に基本的な地位の違いがある、(b)国際慣習法上、国家は外国人を受入れる義務を負わず、外国人を自国内に受け入れるか否かはその国の自由であり、受け入れる場合にいかなる条件を付するかは当該国家の自由である、(c)外国人の在留期間の更新も海外渡航の自由も権利として保障されず、国家の自由裁量である、(d)外国人も、私生活上の自由、プライバシーの権利をもつが、外国人登録制度の目的は在留外国人の公正な管理であり、その下での指紋押捺制度、確認制度等も必要、かつ合理的であり、政治活動の自由も、わが国の政治的意思決定又はその実施に影響を及ぼさない限度で認められる、というものであり、マクリーン最高裁判決の枠組みが強く生きている。(2)では、消極主義Iのテクニックとして1つ、消極主義IIのテクニックとして2つ、積極主義Iのテクニックとして1つのテクニックを抽出できた。法令を違憲とするテクニックは見られず、司法が外国人の人権に対し積極的な対応をしているとはとてもいえない。しかし、裁判が、世論を喚起する大きなフォーラムとして機能してきたことは否定できないし、また、(2)で見たように、消極主義IIの「権利保障なし・立法政策として権利付与可」テクニックを用いた最高裁判決が契機となり、現在、定住外国人の地方参政権が国会で議論されるに至っている。ここに、ドラスティックではないにしろ、違憲審査権行使に関する「日本型機能」を見ることができる。
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