本研究は、法的に要請された男女平等の規範的な内容を探求する素材として、ドイツ憲法における正義指向モデルが、ドイツ国内で直接に妥当するEC法の権利指向モデルによって修正を迫られる状況を対象とし、それをどう把握するかを考察する。 権利指向モデルを採ることにより、男女を異なって扱う立法を権利制約と捉えた比例性審査が、正義指向モデルで採られていた比較可能性審査に取って代わることになる。そのことにより、積極的差別解消措置を採用する射程などに対しても、安定した審査基準が供給できることになる。その前提として、性別という指標が法的に無意味であることを内容とした「無関係性テーゼ」の規範的承認が先行する必要がある。 EC法の実務との関係では、直接に性別を分類基準としない「間接的差別」に関わる領域で、正義指向モデルに基づく比較可能性審査の適用が不可避となる点の確認が得られた。また、ドイツ法との関係では、明示的な性別基準に基づく分類に関して比例性審査の適用が理論的進歩の現段階においてもはや許されるものではない点が確認された。 本研究の成果を我が国に導入する場合の最大の問題は、この「無関係性テーゼ」の確立をどのような道筋を経て展望するかという点に置かれる。男女共同参画社会の実現を契機としながら、基本的人権レヴェルでも自らに責任のない特徴に基づく法的区別を「差別」として原理的に排斥する枠組の構築が必要であろう。こうした構図は、部分的にはすでに判例上確立したものでありながら、憲法学内部で十分に意識されていない。この点の理論化が、今後の課題として残る。
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