本年度は、国際刑事裁判所(ICC)の設立過程とくにその管轄に入る重要な犯罪の問題を検討するために、基礎的資料文献を購入し、関係の資料収集を行い、それらを整理するとともに、ICC設置に影響を与えている旧ユーゴ国際裁判所(オランダのハーグ)の係官に面会し、ヒアリングなどの実地の調査を行なった。それらに基づいて、この問題に関する研究を進め、その成果をいくつかの論文として公表した。そこではまず、ICC設置の構想が第一次世界大戦にまで遡るため、その構想の展開の歴史をさぐり、問題点を明らかにした。とくに第二次世界大戦後のニュルンベルクと東京の国際軍事裁判所設置が臨時のものであったのに対して、ジェノサイド条約作成時には常設の国際刑事裁判所設置の必要が指摘されていたこと、しかし、旧ユーゴ国際裁判所とルワンダ国際裁判所は国連安保理の決議により臨時のかつ領域的にも限定されたものとして設置されたことを明らかにし、それらとの対比でICCのような常設の普遍的裁判所の設置の条件や問題性をその起草過程を検討しつつ明らかにした。また、具体的にICC規定の諸規定とくに犯罪に関する規定の起草にあたっての困難な問題を検討した。なかでも、「侵略の罪」は、その重大さにもかかわらず、ジェノサイド罪、戦争犯罪、人道に対する罪のように構成要件を示すことができず、なお検討中であることに鑑みて、この犯罪の思想の研究に取りかかっている。
|