本年度は、前年購入した基礎文献資料、また、イギリス、フランスの研究者との意見交換およびハーグでの旧ユーゴ国際裁判所で収集した判例などの資料を整理しつつ利用して、前年に引き続き研究を進めた。その成果はいくつかの論文として公表し、また、現在研究を継続中のものもある。研究の主な対象は、国際刑事裁判所が管轄権を有するいわゆるコア・クライム、すなわち、集団殺害(ジェノサイド)、人道に対する罪、戦争犯罪、および侵略の罪について、それらの形成過程、内容および構成要件などを明らかにすることである。ジェノサイドを含む人道に対する罪については、とくに第2次世界大戦後のニュルンベルクと東京の国際軍事裁判所において主要戦争犯罪人の訴因としてあげられながら、その構成要件に他の犯罪との関連性などが求められ、独自の犯罪概念として十分には確立していなかったことが明らかになった。また、戦争犯罪についてはとくに捕虜の待遇をめぐる議論がこれらの法廷で争われた。国際刑事裁判所規程は、過去の経験を踏まえ、また旧ユーゴ国際裁判所やルワンダ国際裁判所の規程や判例などを参考にしつつ、とくに人道に対する罪と戦争犯罪については構成要件を詳細に規定している。また、侵略の罪については、その概念の形成過程とくに平和に対する罪の思想を検討し、今日その定式化の困難な点を明らかにした。なお、国際刑事裁判所規程の起草過程を踏まえて、この種の裁判所を設立する意義や位置づけを探り、さらに、この規程の採択や署名・批准をめぐる若干国(米・仏)の態度を検討した。
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