本年度においては、まず第一に、各国の国連海洋法条約に対する公式見解、とくに船舶通航制度に関する見解を、国連海洋法部が発行する一次資料と第三次海洋法会議の公式記録に依拠しながら整理しました。当初は、資源開発制度などに関する見解も整理する予定でしたが、その点に関する作業は十分にはできませんでした。第二に、条約の実施過程における諸国のプラクティスを、各国政府が発行する資料や国連海洋法部が発行する資料などにもとづいて、整理・分析することに努めました。今年度において行ったのは、海洋の科学的調査に関する管轄権行使の態様と根拠、ならびに、二国間レベルでの漁業協定締結の実際に重点をおいた調査でした。第三に、第二の作業と並行して、海洋の科学的調査に関係する国連海洋法条約の規定の起草過程、ならびに、1995年の公海漁業実施協定の根拠規定になっている条約の関連規定の起草過程を調べなおし、整理しました。 以上の作業を通じて、国連海洋法条約の起草過程で想定していなかった問題が実際には多数発生していること、あるいは逆に、条約規定の適用を通じて解決を展望し得る事態は、実際の諸国による実行過程において必ずしも多くはなく、むしろ適用規定自体が欠けている場合の多いことが明らかになりつつあります。また、他方で、適用規定自体が明確ではない場合には、条約の関連規定の解釈をいかにして行うかが問題となりますが、その場合には、改めて条約で定められた制度の趣旨と理念を再吟味しつつ、各制度が保護しようとしている法益が何かを明らかにすることの必要性と重要性を痛感するようになりました。今年度は、国際法研究者の解釈論の分析も一定程度行いましたが、条約の実施過程において実際に生じている問題を離れた観念的な解釈論が多いため、条約の解釈論研究にもなお改善、克服すべき課題のあることを確認しました。
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