本年度の研究活動の中心は次の二つでした。すなわち、第一に、国際漁業をめぐる動向を分析すること、第二に、深海底制度の実施状況を検討することでした。 第一の国際漁業に関しては、ひとつは、地域的漁業機関が、生物資源の保存と管理の目的のために、非締約国漁船の活動の規制に乗り出している実行に着目し、そうした実行の持つ意味、とりわけ基本的に自由とされてきた伝統的な公海漁業の法構造に対して、すでにその構造の土台を崩すほどのインパクトをもっていることを、一定程度明らかにしました。いまひとつは、日本が95年ぶりに国際裁判の当事者となり、世界的にも大きな注目を集めた、みなみまぐろ事件の分析を深めることにつとめました。この事件は、国連海洋法条約と地域的漁業脇定との関係、国連海洋法条約の紛争解決規定の解釈問題など、国際海洋秩序の根幹に関わる重要問題を提起しています。そこで、この事件における仲裁判決を批判的に検討する見解を公表し、若干の問題提起を行いました。第二の深海底制度に関しては、国際法学会が学会創立100周年を記念して刊行した『日本と国際法の100年・第3巻<海>』に、深海底制度が設立され、その後に修正され、そして現在は実施に移されている。という、その過程の全体を概括的にですが一応通史的に分析する論稿を寄稿しました。この作業は、本研究にもとづき、前年度に国際海底機構を訪間する機会を与えられたことに多くを負っています。 このほか、本年度においては、慣習法の形成・認定過程の変容に関する検討を行い、本研究課題の基本にかかわる理論問題の分析を試みました。本年度で3年間にわたる研究期間が終了しますが、この3年間の作業はきわめて有益かつ貴重でした。本研究で得られた知見を基礎に、研究課題に関する体系的なまとめができるよう、さらに検討を続ける所存です。
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