本研究は、近年、複雑に発展しつつある金融取引や開発が続く金融商品を対象として、これまで主に現実の金融取引に従事し金融商品の開発をしている者によって行われてきた研究の限界を乗り越え、研究者による客観的な立場から、より精緻な理論的検討を行い、現実の金融取引上の需要と債権者の権利の迅速な実現、利害関係人の公正・公平な処遇などの執行法及び倒産法の理念とを調和させる合理的な法解釈論や立法論を展開することを目的とするものである。本年度は、昨年度に引き続き、取引実務の把握・理解のための作業を行い、さらに取引実務の分析・理論的解明に努め、他の研究者や実務家からも意見をきくなどしながら、主に理論的な視点から検討を加えて、あるべき解釈論・立法論をまとめ、論文として発表する準備作業をした。そして、成果報告書に詳細に記載したように、執行手続上の重要問題である転付命令の要件、倒産法上の重要問題であり今後の改正作業においても検討対象となることが見込まれる否認をめぐる種々の問題、近時立法された民事再生法をめぐる債務者の民事再生手続上の法的地位及び担保権消滅請求制度に関する問題などについて、新たな視角から研究を深めることができた。このうち、転付命令の要件に関する問題については、すでに論文を発表したし、否認についても、また実際に起こった親子会社の倒産事件をヒントに執筆した詳細な論文の原稿が完成して民事手続法学に関する論文集に寄稿済みであり、本年夏には公刊される予定となっている。
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