本研究は、複雑に発展しつつある金融取引や開発が続く金融商品を対象として、研究者による客観的な立場から、より精緻な理論的検討を行い、現実の金融取引上の需要と債権者の権利の迅速な実現、利害関係人の公正・公平な処遇などの執行法及び倒産法の理念とを調和させる合理的な法解釈論や立法論を展開することをめざしたものである。研究の方法としては、金融取引の実情やそこで生起している法律問題を把握するために、国内・国外の文献、契約書や債券発行関係の資料などをできる限り広く収集し、また、実務家を対象にヒヤリング調査を行った上で、理論的な分析をすることとした。本報告書は、この成果のうち、理論的な分析に重点を置いてまとめたものであり、現代的問題につき新たな視角から研究を深めることができた。第1章は、執行手続上の重要問題である転付命令について、質権が設定された定期預金債権を対象とする転付命令の可否を論じ、従来の議論を発展させる形で肯定説を展開した。第2章及び第3章は、倒産処理法上の重要問題であり、わが国の今後の改正作業においても重要課題の一つとなると予測される、否認の問題を扱ったものである。第2章は、親子会社の倒産事件で現実に発生した問題を手がかりとして、受益者が倒産した場合に、倒産否認ないし詐害行為の取消しが受益者の債権者との関係でどのような効果をもつか、という古くから存在するが、わが国では忘れ去られていた問題を取り上げ、解釈論として検討した。第3章は、否認の要件に関する証明責任の問題を立法論として検討した。第4章及び第5章は、近時立法された民事再生法について、その重要問題である、債務者の民事再生手続上の法的地位(第4章)及び担保権消滅請求制度(第5章)について、解釈論を展開したものである。なお、今後も実態の分析を含めた論稿を発表していく所存である。
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