比較法的検討としては、わが国の金融サービス法導入論の契機となった英国の1986年金融サービス法の全面的改正作業を検討した。英国の伝統にのっとった多様な自主規制団体による分権的で柔軟な規制による投資者保護を特徴とした1986年法が不十分であるとして、公的な規制機関による集中した規制方式への変容はわが国の規制を考える上でも示唆的なものである。投資者保護の基本枠組みの問題としては、わが国でも問題になっている、投資者のタイプに応じた勧誘方法や情報提供義務の規制の区別をめぐる論議が今後の本研究の素材として有益である。分類の必要性と事前の分類の困難さは、事前に編纂された制定法型の規制を課題とする英国の今回の立法でも認識され妥協的な措置として5条2項が挿入されたことなどは今後のわが国のルールづくりにも参考となろう。 理論的検討としては、公正な内容の規制が実施されているという「公正感」が市場の信頼を醸成し、効率的な取引が拡大する前提になっているのではないかという観点から投資者保護規制のあり方を根拠づける作業を行った。特に、投資勧誘が公正に行われているという期待がどのように保護される必要があるのか、そこでの期待が投資者のタイプによってどのように異なっているのかについての検討を行った。ただし、未だ公正概念の外延を明確にするまでには至らなかった。 また、市場における公正確保の最低限の要請としての、相場操縦規制や内部者取引規制について証券取引法改正に関する解釈論上の問題点の検討も行った。
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