投資者の自己責任原則を前提とした投資者保護の規制として、昨年までは主として個人の意思決定環境を整備する規制類型を中心に研究してきた。本年も当初は、そのラインの検討を行っていたが、意思決定環境を整備されただけでは自己責任の前提を充たすとは考えられない領域の存在に気づき、まずこちらを取り上げることにした。この問題は特に金融仲介者の健全性に関して重要な意味を持つ。市場機能を重視する立場からは、開示規制と市場的濫用行為規制さらに意思決定環境が整備されれば投資者保護として十分であることになる。しかし、現実には市場が当該機関の健全性に関してネガティブな評価をしてからでは投資者保護として遅きに失することになる。また継続的に健全性をモニタリングしていく手だてもない。それゆえ、この場合には、政府が投資者に代行する形で金融仲介者の監督及び規制を行う必要があることを示した。さらに具体的な領域として銀行規制の問題を取り上げ、健全規制のあり方を考察し、特に従来規制緩和の観点から競争促進的であると指示されることの多かった異業種参入に対しても、投資者=預金者保護の観点から規制が正当化される余地があることを明らかにした。あわせて、市場濫用行為規制の一例として相場操縦問題を取り上げ、eb債やインデックスリンク債などに関連した操縦行為が最高裁判例では規制が困難ではないかという問題提起を行い、立法論的な検討を行った。
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