前年度に明らかにしたように、投資者の自己責任原則の前提として、金融仲介者の健全性規制が不可欠であるという認識から、米国の金融制度改革法の検討を通じて、わが国の健全性規制の不備を考察した。前年度に検討を行った銀行及び銀行持株会社の規制に関連して、それらの機関の株式保有の規制の意義を、とりわけ一般事業会社の株式に注目して検討を行った。そこでは、わが国で中途半端に系受された銀行と商業の分離原則の現代的意義なども検討した。また、健全性規制以外に投資者が自己責任を負う前提としての市場環境整備問題の検討を行った。わが国の金融自由化に影響を与えた英国の1986年金融サービス法は2000年金融サービス・市場法のレジームへと大きな変貌を遂げたが、その中でも重要な改革として、市場濫用規制と呼ばれる市場環境整備のための規制枠組みがある。それは特に内部者取引と相場操縦の実効性ある規制を意図したものであるが、そのために濫用的行為の規制基準のみならずサンクションのあり方も含めた斬新な規制がなされている。これは市場環境整備問題の自己責任原則の前提としての重要性を再認識してのものと思われる。そこで、市場環境整備問題の中でも、特にわが国で規制の不備が問題視されている内部者取引規制に焦点を合わせて、内部情報の定義及び内部者の範囲が現行証券取引法では狭きに失し、投資者が証券市場のインテグリティを信頼して市場に参加することを困難にしていることを明らかにした。また、それが一般投資者に対して不公正である以上に、市場の健全な発展を阻害しているのではないかという視点から今後の内部者取引規制の立法論にむけた準備作業を行った。
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