本年度は、契約関係をめぐる違法行為に係る法的処理の現状把握を主眼として、法的処理に関する理論的分析・整理、実務法曹との共同研究、比較法的検証を試みた。 1 締結交渉、目的・内容、履行その他の契約関係全般の適正化と、その合理的な法的規制を期して、詐欺的商法と専門家責任を素材として契約法による処理と不法行為によるそれとの要件・効果上の異同ならびに法的問題点の洗い出しに努めた。その結果、賠償法理に情報提供・説明義務が現れた近時の理論動向の延長線上で、契約の種類・性質および契約主体の種別・属性その他に応じて措定される義務につき、その多様化および契約と不法行為両規範の融合関係を析出しえた。 2 契約関係の適正化につき、従前は違法行為を念頭に置くことが通例であったが、違法性と並んで不当性を問題とすべき必要性を痛感するに至り、視野を不法行為処理に限定せず、これを超えた法的処理に拡げることになった。ちなみに、担保取引にあっては不法行為処理は必ずしも有効ではなく、契約意思の存否や意思能力の有無などの観点からの接近が必要不可欠である等の新たな検討視角を得た。 3 契約関係の適正化につき従前、締結過程と目的・内容が主要な考察対象であったが、履行過程をも視野に収める必要性があり、これが将来課題として浮かび上がった。この点に関する試論的作業として、大規模開発事業・公共事業につき注文者責任を問う手法を提言し得た。これはフランス法における行政契約法理に示唆を受けたものであり、かかる発想視点には発展性があると考えている。
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