本研究は、契約関係の適正化を期して、交渉過程、種類、目的・性質、内容その他の契約関係の全般につき、反社会性や反倫理性等が認められる場合の法的対処いかんに接近し、新たな理論的枠組みの構築を目指して、実務法曹の協力を得て以下の作業を展開した。 (1)基礎的な準備作業として、契約関係をめぐる不法行為処理の現状につき、対象事案や処理方式、適用法条等々を類型論的に分析した。その結果、従来型の取引的不法行為や悪徳商法など違法性の明らかな行為および民法715条適用については、現状処理がほぼ妥当であり、問題は非典型的事案で、不法行為処理の有効性と限界が明らかになった。 (2)不法行為の処理方向として、包括的で概括的な709条の弾力的・柔軟な活用が進み、その重要性が増すと共に、716条の活用などの新機軸を具体的に論証した。 (3)一方当事者の過大・不当な不利益救済に不法行為処理が無力の場合には、契約規範の枠内での処理工夫が必要であるとの観点から、契約自由を墨守する処理に疑問を抱き、付随的義務違反による契約解除のほか、既存の無効処理制度活用の必要性を析出した。 (4)妥当視された既存法理にも問題がありうるとして、一方当事者に過大の負担を負わせる担保を取り上げ、協会保証、根保証や物的担保の物上代位につき問題性を析出した。 (5)契約関係の適正化には当事者論を見直す必要性を認識するに至り、意思能力論の抜本的・本格的な見直しを行い、新たな解釈論を構築することとした。 (6)本研究は、研究期間に民事再生法、消費者契約法、金融商品販売法、成年後見法など関連する各種の立法に遭遇し、その研究方向の今日的意義が明確になると共に、これら新立法との関係で総合化・体系化を急ぐ必要性と、その際に当事者論が一つの重要な視角になることを〓明化しえ、今後の発展性を明らかにしえた。
|