研究概要 |
最終年度である平成14年度においては、長い曲折を経て2001年に成立したEC情報社会と著作権指令(InfoSocDirective)につき、その制定過程をまず調査した。本指令は、ECのGreen Paperにその淵源を持つものであるが、最終的な指令の内容は、その間の技術の進展、著作権をめぐる利益団体の闘争を反映して、当初予定されていたものとは大きく異なっている。なかでも、技術的制限(いわゆるcopy control, access control)の回避などにむ対する規制は、規制対象となる技術的手段の範囲、著作権権利制限との関係をめぐって関係者の利害が大きく対立し、指令の成立を最後まで危ぶましめた。すなわち、一方では、技術的制限手段は、従来事実上不可能とされてきた著作権侵害行為の完全な把握を可能とし、著作権のインセンティヴとしての機能にとって重大な役割を果たしうるため、その回避については、罰則を含めたサンクションをもって臨むべきである、との主張がある。他方で、著作物のuserである図書館、消費者の団体からは、技術的制限は、著作権法が権利者の許諾を必要とせず自由に行えるものとしている権利制限該当行為、たとえば図書館における複製や批評目的の引用も、すべて禁止してしまう点において、著作権法が標榜するところの「権利の保護」と「公正な利用」のバランスを通じた「文化の発展」を阻害するものである、との反論がなされる。EC指令においては、この利益対立を解決すべく、まず、著作権者の側に、権利制限手段の利益を確保するための任意の措置を求め、これが不十分な場合には、申立により、内務省が適切な手段を講ずる、という妥協をはかった。ただし、オンライン上で提供される著作物については、この仕組みは妥当しない、とされる点で、やや著作権者側に有利となっている。この指令は、2002年12月22日を期限として国内法化されるはずであったが、各国内では異論が噴出し、2003年3月末段階ではその動向は予断を許さない。さらに研究が必要である。
|