本研究は、民事法学的アプローチから『医事法』領域に踏み込み、イギリス医事法を主たる検討素材とし、その具体的焦点を「患者の自己決定」に据える継続的研究であり、あわせて、イギリス法と日本法との比較法学的な研究手法を活用し、わが国における医事法学の展開への主体的寄与を志すものであった。研究の遂行にあたっては、イギリス医事法に関する基礎的知見の獲得を初年度の目標とし、最終年度は、さらにイギリス医事法の動向を、わが国のほか、イギリス以外の諸国(ことに、アメリカ、オーストラリアなど)における医事法の潮流とも応接させながら、「イギリスにおける『患者の自己決定』への司法的規律のありかた」に関する考究として、結実させることを企図した。本研究の進展により、毎年度の訪英の機会を始めとする、数多くのチャンネルを経由した文献・資料等の収集活動などを通じ、幾多の新たな知見を獲得できたものと確信される。具体的には、妊婦の意思に反する帝王切開術の強行、宗教上の理由等による診療拒絶、植物状態(PVS)患者の生命維持装置の取り外しなど、それぞれの具体的な医療実践の局面ごとに、患者の自己決定に司法機関が積極的に介入するというかたちでの、「患者の自己決定と司法」をめぐる現代イギリス医事法の到達点が精査でき、これらに対する一定の評価を日本法への示唆として、総括できたものと思量される。あわせて、医事法全般に関する基本的な研究視座も多く確立できたように思われる。本研究の成果は、今後とも、イギリス法などを検討素材として、「患者・医師関係のありかた」など、医事法のコアに関わる基盤的研究の展開へと、一層発展されるべきことが強く期待される。
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