本研究では、法律上取締役でない者(以下事実上の経営者という)が会社経営に関与した場合に生じる法的諸問題を、事実上の経営者の会社ないし第三者に対する責任と取締役が他の会社の事実上の経営者となった場合の競業取引・利益相反取引規制に分けて考察した。これまでの事実上の経営者に関する研究は、以上の問題を区別せずに行われる傾向にあったが、両者は法律構成を異にし、区別して議論されるべきである。判例の分析からも、前者については、事実上の経営者が実際に経営に関する指揮命令等を行っていたがに関心が払われ、後者については、事実上の経営者が競業取引や利益相反取引の実行行為者であるかどうかに焦点が当てられていることが明らかになった。 イギリスや韓国では、「事実上の取締役」を一定範囲で取締役に準じて扱うための立法が行われた。イギリスでは、判例法上発展した影の取締役制度が制定法において認知されたという経緯がある一方で、韓国では20世紀末の通貨危機の際に急速な立法作業によって導入された。これらは、いずれも取締役の第三者に対する責任について主として意味を持つ。 事実上の経営者は支配株を背景にしているのが通常である。アメリカでは、支配株主の忠実義務理論が発展してきた。本研究では、とくに支配株主と会社間の会社機会の分配について詳しく扱ったが、支配株主は取締役に準じて、会社の機会を自己のために奪うことが禁止されることが明らかになった。 平成14年の商法改正により委員会等設置会社が導入され、取締役の位置づけが変容し、また経営を担う執行役という機関も新設された。今後は、「事実上の取締役」「事実上の執行役」の意義付けについてさらに細かな分析が必要になろう。
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