本研究は、株式会社の業務執行機構の変遷を、フランス法を素材にして実証的に明らかにすることを目的としている。本年度は、まず、そのための資料収集とその検討という基礎的な作業を進めた。 近年、各国において「コーポレート・ガヴァナンス」が盛んに論じられており、株式会社企業の経営機構のあり方がそこで問題にされている。そのため、フランスでなされている「コーポレート・ガヴァナンス」の議論を検討することを通して、フランスの特色を浮きぼりにするという作業も行ない、その研究成果を「フランス会社法とコーポレート・ガヴァナンス論」として公表した。 フランスでは1966年の商事会社法改正以来、株式会社の業務執行機構に関して、いわゆる一層制と二層制の二つの機構が認められているが、現在でも、ほとんどの会社は、単一の合議機関からなる一層制の機構を採用している。そのような一層制の機構では、取締役会が監督するべき会社の業務執行は取締役会の会長が行なうものとされている。すなわち、取締役会による業務執行の監督は、自らの構成員に対する監督であるという自己監督の矛盾を抱えており、この点はわが国の取締役会による監督(商法260条1項)でも同様である。アメリカあるいはドイツでは、会社業務の執行と監督を分離させることによって監督に実効性をもたせようとしているのであるが、フランスでは、現在なされている「コーポレート・ガヴァナンス」の議論においてもそうした分離を企業に義務づけようとする提案はなされていない。ただし、フランスでは、アメリカあるいはドイツとは異なって、「監査役(commissaire)」の制度が強化されてきている。そうした点にフランスの特色があると、上の論文では指摘した。そして、そのような観点からわが国の制度も含めて株式会社の機関構成を検討したのが「監査制度のゆくえ」である。
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