本研究「雇用の多様化・流動化と市場における公正の確保―新たな法規範と紛争処理システムの模索―」は、今後さらに進展が予想される雇用の多様化・流動化に伴って生ずる様々な課題に対して、新たな法規範の定立と新たな紛争処理システムの構築という二つの視角から取り組むものである。 本年度は、「雇用の多様化・流動化」に関する比較法的検討と裁判例分析を通じた課題の洗い出しと我が国における検討課題の整理を、また、「市場における公正の確保」に関しては、個別雇用関係に関する紛争について労働市場に委ねた処理、外部の紛争処理機関による処理、そして企業内の紛争処理機関による処理の文献研究を中心に行った。 (1) まず、雇用の多様化・流動化に関しては、先進諸国とくに、アメリカ、ドイツ、フランス、オランダなどにおける規制緩和、とりわけ派遣労働や有期契約についての動向について、文献研究および来日研究者からのインタビュー等を行った。また、雇用流動化については、ドイツの解雇法制の最新展開(96年改正と98年改正)やアメリカにおける随意的雇用の判例法による制限法理の展開等について、分析を行った(主として荒木が担当)。 (2) 他方、市場における公正の確保に関しては、個別紛争処理システムに関して、企業外紛争初志制度として、ドイツの労働裁判所やイギリスの労働審判所、助言斡旋仲裁局などの雇用関係事件を専属的に処理する特別裁判所や行政機関などについて文献研究を行い、また、企業内紛争処理制度については、ドイツの事業所委員会やフランスの企業委員会、従業員代表などについて文献研究を行った。同時に日本における労働委員会の制度変更による個別紛争処理などの具体的提案についても検討を行った(主として菅野が担当)。
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