ここ1、2年遺伝子治療は急速に発展し、医療技術として確立しつつある。私も、北海道大学医学部や東京大学医科研をはじめ、幾つかの医療機関を訪れ、そのことを確信するに至った。同時に、プライバシーの保護をはじめ、遺伝子治療にともなう法律問題も噴出し、早急に解決すべき論点も多くなっている。 本研究は、第1年次において、ヨーロッパ各国における遺伝子治療の実態を調査するとともに、訪問先の担当医師にインタビューし、先端技術の医学適用にともなう問題点を尋ねた。また、わが国で遺伝子治療を実際に行っている医療機関の担当者から多くの教示を受けた。第2年次において、それに伴う法律問題を整理・検討した。 本研究の終了に合わせ、人間のゲノム構造の解読が進められ、人の遺伝子が3〜4万であることが確認された。このため、遺伝子治療は今後ますます盛んに試みられるであろうし、遺伝子治療を目的とした医薬品の開発も急ピッチで行われるであろう。 本研究は、これらの実態調査を踏まえ、比較法的・法理論的観点から、遺伝子治療における医事法の課題を検討した。その成果は別添の資料に示される通りであるが、問題は、法的解決策の提示以前に医療現場が急速に変化していることである。特に最近では、前述のゲノム分析をはじめ、クローン人間の出現、遺伝子治療をこえた再生医療(ES細胞)研究などが世間の注目を浴びている。このため医事法の課題はますます大きく、かつ困難となっている。 今後、申請者は、本研究をさらに発展させ、法政策的観点から立法論を視野に入れた総合的研究を計画している。
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