「医事刑法の総合的研究-自己決定権とパターナリズムの交錯-」という研究課題に取り組み、今年度は、総論部分のうち、アメリカのファインバーグ「パターナリズム」やサルトリウス編「パターナリズム」を読む一方、ドイツのカントとイギリスのミルの自己決定思想、ならびに現代ドイツの刑法・法哲学の碩学アルトゥール・カウフマンの「責任原理」を翻訳して自己決定思想の具体的顕現を考察した。これにより、自己決定とその限界、およびパターナリズムの活用場面についての基本的枠組みがほぼできあがった。 また、各論敵考察として、別紙研究発表に見られるように、多胎減数術、中絶、生殖医療、クローン問題等の生命発生の周辺の問題を考察し、さらに医師による自殺幇助、安楽死の問題、豊胸手術と承諾の問題、さらには院内製剤とインフォームド・コンセントの問題について考察し、刑事規制と他の初期性との関係も含めて、医事刑法の具体的適用場面について一定の成果をあげることができた。 さらに、医療関係者に対する各種ヒアリングを実施したり、研究会において医療過誤やインフォームド・コンセントについて議論をして、有益な意見を聴取することができた。医事刑法理論が医療現場にどのように受け止められ、医療の改善に繋がっているかという新たな課題も発見できた。 残された課題を次年度でさらに探究する予定である。
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