「医事刑法の総合的研究-自己決定権とパターナリズムの交錯-」という研究題目に取り組み、今年度は、いわば仕上げの段階であった。総論部分として、日本刑法学会第79回大会の第I分科会において「刑法における自律と自己決定」というシンポジウムを主宰し、自己の見解と刑法学会全体の意見をまとめた(刑法雑誌41巻2号参照)。 また、各論部分として、ヒト・クローン技術等規制法の分析、精神障害と刑事責任に関するG・ムスラーキス助教授(ニュージーランド・クイーンズランド大学)の講演原稿の訳出をし、さらにA・エーザー博士(ドイツ・マックスプランク外国国際刑法研究所所長)によるドイツ胚保護法に関する講演、ペーター・タック教授(オランダ・ナイメヘン大学)によるオランダの後期妊娠中絶に関する講演をしていただき、原稿を訳出したほか、医療過誤刑事判例の分析、薬害エイズ事件判決の分析を入念に行った。いずれも、学会のみならず、各方面にインパクトを与えることができたことは、成果として特筆しておきたい。 これらを通して、医事刑法の総合的研究が深まったので、これまでの一連の研究を医事刑法研究シリーズとしてまとめて、著書を成文堂より刊行予定である。また、現代刑事法に「医事刑法」を連載予定である。
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