「医事刑法の総合的研究-自己決定権とパターナリズムの交錯-」という研究課題に3年間取り組み、総論部分としては、自己決定(権)思想ないし理論の根本に遡って考察し、とりわけ第79回日本刑法学会大会第I分科会で「刑法における自律と自己決定」というシンポジウムをオーガナイザーとして担当して、研究成果を発表できたことは大きな意義があった。そこでは、自己決定は重要だが万能ではない、というかねてからの私の主張が大方の理解を得た。また、医事刑法の体系の骨格ができ、法律専門誌「現代刑事法」に「医事刑法への旅」と題して長期連載中である。 各論的部分としては、上記「医事刑法への旅」で、医事刑罰法規の体系、治療行為、輸血拒否、人体実験・臨床試験、医療事故、薬害等について論稿をまとめ、公表したし、日本医事法学会第30回大会シンポジウムにおいては医療過誤に関する刑事法的観点からの分析・検討を報告してインパクトを与えた。また、薬害エイズ事件では、一連の論稿を発表し、各方面にインパクトを与えた。終末期医療においては、長年の研究を『安楽死と刑法[医事刑法研究第1巻]』(成文堂)としてまとめ、出版したことは大きな成果であった。今後続刊を刊行予定である。さらに、生殖医療やクローン問題、ES細胞問題のような最先端の諸問題についても一連の論稿を発表し、議論を喚起することができた。 以上のように、3年間の研究成果は、実に実り多いものであった。
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