本年度は、主に文献の調査と収集作業が中心となった。文献調査は、本年は、アメリカ合衆国における、訴訟能力判定手続ならびに判定基準に関する、アボリショニスト(廃止論者)とリビジョナリスト(修正論者)の学説論争の分析を主に実施した。 判例における訴訟能力基準の制定の結果、合衆国では、訴訟能力欠如による大量の公判手続からの除外ならびに入院加療処分への移行という無能力者の対応手続が生まれた。にもかかわらず、基準の見直しを主張する修正論者と、一気にこれを廃止し、新たな枠組みの構築を目指そうとする廃止論者との学説論争が起きたことが知られており、本年度の研究はこれらの論争の背景沿革とその具体的主張の対比吟味がおこなわれた。 本年は特に、修正論者のなかでも非常に活発な執筆活動を行っているボギー教授とウイニック教授という二人の教授の見解を検討した。両教授は、法が全面的に当事者の被告人の訴訟能力という存在を確認するという現行の司法介入主義から、弁護人と依頼人の関係に訴訟能力の判断基準をシフトさせようと主張しているのである。彼らの学説を検討した結果、これまでわが国では先進的と目されていた合衆国における訴訟能力判定をめぐる現在のシステムのデメリットとして、第一に、司法過程において、訴訟能力問題をめぐるコストが非常に大きいこと、第二に、被告人に対する負担が大きいこと、第三に、被告人に不利益な処遇結果になっていることなどが明らかになった。
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