本研究は、先進諸外国の証人保護法制を比較法的に検討し、そこからわが国の包括的な証人保護法制を考える際の示唆を得て、わが法の解釈・立法に資する基礎理論を提示しようとしたものである。 近時、わが国でも、暴力団関係犯罪の被害者や、性犯罪を受けた被害者女性・子供が証人となる場合に、これらを保護する必要性は、きわめて高い。この問題は、わが国の刑事訴訟法に多大の影響を与えている大陸法系の国(とくにドイツ)でも英米法の国(とくにアメリカ)でも、熱心に論じられており、法制度や規定の違いを越えて、わが国の解釈・立法等に参考となることが多い。しかし、わが国では、この点について諸外国の状況が検討されることはさほど多くなかったので、本研究では、まず、諸外国での証人保護の実情を整理・分析し、わが国への示唆を得ることを目指した。 このような比較法的考察に基づき、刑事訴訟における証人保護の施策について理論的な検討を加えた。わが国でも、研究開始直後の1999年8月に「組織犯罪対策法」が、翌2000年5月に「犯罪被害者保護関連二法」が成立し、被害者証人の保護に関する規定が一部盛り込まれた。しかし、両者ともはなはだ不十分な内容にとどまった。その後わが国では、2001年6月に『司法制度改革審議会意見書』が発表され、裁判員制度の導入も決定された。この制度導入に際しては、「調書裁判」といわれるわが刑事司法をどのように「証人裁判」へと導くかが1つの重要な視座となる。また、証人の多くは同時に被害者であるので、この研究は刑事手続における被害者保護の問題とも密接な関係をもっている。本研究では、それらの点についても、若干の考察を試みたが、それらはなお不十分であるので、包括的な証人保護法制を構想すべく、引き続き努力を重ねてゆく所存である。
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