今年度は、これまで一体的にとらえられていた「共和主義」、「国家」、「国民」という語に着目して、現代フランスにおける議論状況を検討した。具体的には、「共和主義」という問題領域では、C.ニコレとリュック・フェリーの一連の著作を検討し、「国家」についてはP.ビルンボームの国家社会学を、「国民」についてはD.シュナペールの著作を中心に検討した。「共和主義」の問題領域では、ポーコックの著作を契機に英米およびわが国で活発になった「共和主義」論議とはやや異なったフランス的特質を明確化する作業をまず行った。簡潔に言えば、フランスでは「共和主義」と言った場合、あくまでも「啓蒙」の延長上にとらえられるのに対して、英米では古典古代のポリス的伝統とのつながりが強調され、モダニズム批判の文脈でとりあげられる傾向が強いのだが、そこからでてくるフランス的特質を、特に政治哲学者リュック・フェリーに注目して再構成を試みている。そして、「共和主義」派が、ハイデッガーやデリダたちの理論に依拠するフランス的「差異の政治学」にどのように向き合っているか、フェミニスムやエコロジスムにどのように向き合い、共和主義理論を再構成しようとしているかを明確化しようとした。その際、90年代にやはり「共和主義」モデルに着目したJ.ハーバマスとの対比も行う必要を感じているが、それは今後の課題とした。なお、P.ビルンボームの国家社会学、D.シュナペールの「国民」の社会学の検討も行っているが、C.ルフォール、P.ロザンバロン、M.ゴーシェたちの「市民社会論」との対比でさらに検討することは次年度の課題である。
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