本研究では、「国民国家」の元祖であるフランスにおいて、1980年代以降に行われてきた共和主義論と市民社会論の論争を手がかりにして、グローバリゼーションの展開によって大きく揺らいでいる「国民国家」をめぐる諸問題を再検討するための基礎研究を行った。その際、「共和主義」、「ナシォン(国民)」、「国家」という基本カテゴリーに注目して、検討を行った。 まず、共和主義理念をめぐる議論は、英米でもJ.G.A.ポーコックの『マキアヴェリアン・モーメント』以来活発に行われているが、本研究では、クロード・ニコレの歴史的研究を手がかりにして、フランスにおける共和主義理念の形成と特質を見た上で、80年代以後の共和主義の再定義の問題を検討した。具体的には、共和主義の再定義派の代表的人物として、リュック・フェリーとアラン・ルノーという、第二次世界大戦後に生まれた若い政治哲学者の著作を取り上げ、ポストモダン思想経由の「差異の政治」、「市民社会論(ピエール・ロザンヴァロンが代表格である)、多文化主義といった90年代の諸思想と対峙しながら、彼らがどのように新しい「主体」の哲学と共和主義的政治の方向づけをしようとしているかを検討した。 次いで、共和主義理念と結びついてきた「ナシォン」と「国家」の再定義の問題に取り組んでいる理論家であるドミニク・シュナペールとピエール・ビルンボームという二人の政治社会学者の90年代の著作を取り上げ、彼らが、市民社会論や多文化主義に対峙しながら、それぞれの、「ナシオン」の政治社会学と、「国家」の政治社会学について検討した。
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