本研究の目的は、クリントン米政権における「世論志向」政権運営の戦略的意思決定と実施過程の分析である。政策に関する合意形成と、政権維持の「危機管理」の二側面における当政権の世論戦略を比較し、その特徴と条件を明らかにするとともに、当政権における世論動向把握・政策形成・有権者訴求・フィードバックの連動過程としての戦略的有権者コミュニケーションと、それを通じて実現されるリーダーシップの形に焦点をあてる。 平成11年度は、主に米国において文献調査と学術関係者および戦略担当者の聞き取り調査を行い、当政権の(1)戦略の組織化、(2)リーダーシップの特徴、(3)内政政策(教育)と危機管理(弾劾)のコミュニケーション戦略について、情報を収集し、それをもとに当政権の「レスポンシブ・リーダーシップ」モデル概念図を作成した。 モデルは以下の4段階に分けられる。(1)「公衆のアジェンダ(P1)」形成-世論調査による基礎的世論の収集と、その戦略的フレーミング、(2)「政権アジェンダ」の形成-公衆、メディア、政治的勢力、環境の諸要因を組み込んだ、政権アジェンダの具体化、(3)「アジェンダのプレゼンテーションと政治的調整」-政権アジェンダに注目と同意をとりつけるための戦略的調整、特にアジェンダの原型(オフィシャルなアジェンダ)を戦略的に修正(戦略的なアジェンダ)する過程、(4)「戦略的アジェンダの中心化」-「公衆アジェンダ(P2)」「メディアアジェンダ」と政権の戦略的アジェンダの間の葛藤を解消し、それらを引き寄せるためのコミュニケーションと、戦略的アジェンダの微調整。 今後検証するべき仮説は、【仮説1】政策的合意形成の場合にくらべ、危機管理においては(1)(4)への戦略資源投資が多い、【仮説2】(4)において顕在的潜在的に分裂するメディアアジェンダへの戦略的働きかけが、当政権のリーダーシップ特徴を表す。
|