まず第一に、韓国において、経済危機をもたらした原因とその克服の政治過程を、特に労働運動および労使関係と政府の労働政策を中心に分析した。12月に韓国における労働組合、経営団体、労働部、そして第3期労使政委員会に対して、包括的な聞き取り調査を実施することによって、経済危機の下で試みられた新しい労働政策の核心とも言える、労使政委員会という枠組みが、危機克服の第一段階における労使協調を実現するという成果を達成したが、他方で、その制度化には限界があったことを明らかにした。今後は、こうした労働組合の政治勢力化が、既存政党、労働者政党、および市民運動との関係でどのように展開されるのかを、特に2000年4月の総選挙の結果を中心として、考察を進めていくことにする。 第二に、韓国における現在の経済危機との比較という観点から、60年代末から70年代にかけての韓国における軽工業中心の輸出志向型工業化から重化学工業化への展開を、米韓両国の外交文書などの一次資料を広範囲に利用して、分析することを試みた。この点については、まだ資料分析が完了していないために、まとまった成果を発表するには至っていないが、現在までの分析によれば、アメリカの対北東アジア政策の変化にともなって韓国の経済開発戦略の変化がもたらされ、それが、日本との経済協力関係を相対的に強化することになるというメカニズムが明らかになった。そして、こうした日・米・韓の政治経済関係が、今回の経済危機によって、かなり決定的な構造的変化を帰結することになったのではないかという仮説を提示した。今後は、この仮説を実証すべく、特にその他の経済危機を経験した国との比較を念頭に置いて、韓国の金大中政権が進める構造改革の理念を解明することを試みる。
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