本年度は、前年度に行った1970年前後の政策転換分析を改訂した論文を作成するとともに、戦後ドイツのナショナル・アイデンティティのヨーロッパ次元における展開を、同地域のリージョナルな枠組みで行われる文化交流事業との関連で解明することに研究の重点を置いた。 5月、日本国際政治学会研究大会部会「国際文化交流の現代的意義」共同報告で、戦後ヨーロッパの文化交流事業に対するドイツの関与の推移を、アジアにおける日本の事例と比較しつつ概観した。この結果、ドイツでは様々な矛盾や葛藤があるものの、連邦共和国成立期以来「地域(ヨーロッパ)」へのコミットメントが政策担当者の中に一貫してみられること、この特徴は日本に比べ強固かつ拡大傾向にあることが明らかになった。上記報告における筆者の担当部分は、さらに改訂して6月に通商産業研究所での日独比較研究会にて発表し、同研究所所員の他、国際関係論・アジア地域研究・ドイツ研究の専門家からコメントを受けた。 夏期休暇中に、ドイツおよびフランスで調査を行った。当初予定していた外務省文書の閲覧は、外交史料館のベルリン移転のため叶わなかったが、1980年代半ばから約10年間外務省文化局長を務めた元外交官ヴィッテ氏にボンで面会し、戦後全般のドイツ文化交流政策についてヒヤリングを行った。この他、シュトゥットガルトおよびストラスブールにて、ドイツの文化交流関係者の「ヨーロッパ」に関する議論、欧州審議会の文化協力政策等に関する資料情報を収集した。 調査結果の分析(現在も継続中)の中で、一口に「ヨーロッパ地域の文化交流」と言っても実は主体・目的・事業様態を異にした複数の潮流が同時進行している事実が判明してきた。現在はこれらの諸潮流が織りなすヨーロッパ文化交流の全体像を暫定的に描き出し、そうした複雑なダイナミクスに対するドイツの政府・文化交流関係者の取り組みについて分析を進めている。
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