本研究は、サリーナス政権期がメキシコにおける政治的・経済的・社会的再編過程の決定的転換を遂げた時期であるとの位置づけから、地域社会構造の変容を政治的に分析し、また投票行動の動向を踏まえ、政党構造の再編を検討する課題を持っていた。この課題の検討手続きとして、三つの次元からアプローチした。第1は、グローバル化の進展の中でのメキシコ社会の対応である。今日、この視点は無視できない点であり、それは新自由主義と民主化という二つの大きなトレンドに要約される。サリーナス政権の新自由主義政策と国民の民主化への動きが矛盾を孕みながら相互連携的に発展した。この過程を主に市民や社会運動の側から考察したのが、「メキシコにおける公共空間の創出と新しい社会運動」である。また、新自由主義政策の展開を契機に、サリーナス政権による国家-社会を再構築しようとする企てを全国連帯計画(PRONASOL)に焦点を当てて考察したのが、「メキシコにおけるネオリベラリズムと市民社会の交差」である。第2に、国家機構ないしは官僚機構内部における再編問題がある。これは官僚機構のテクノクラート化に代表される問題であるが、同時に、制度的革命党(PRI)の理念・実践と結びつき、政治エリートの亀裂・分裂をもたらした。「グローバリゼーションとメキシコ権力構造の再編」はこの問題を考察している。第3に、これらの政治諸過程は1980年以降の選挙および得票動向に複雑かつ不均等に反映する。そして、1988年大統領選挙は政権党の得票の低下傾向を最終的に確認し、政党再編を流動化し、その結果、長期にわたる権威主義支配体制の終焉と民主化への移行過程を決定づけることになった。こうした選挙・投票動向の全国的・地域的分析を踏まえ、政党再編過程を分析しているのが、「現代メキシコの社会変容と政党システムの再編」(発表予定)である。今後も引き続き本課題の成果を発表する予定である。
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