本研究では、福祉国家をめぐる現局面をポスト福祉国家段階と位置づけた上で、その日本的現れを「日木型福祉社会」(申講段階では日本型福祉多元主義)としてとらえて、その特徴を国際比較の中であきらかにしようとした。まず最初に日本型福祉社会の概念の吟味を行うとともに福祉社会を比較論的にとらえるための分析モデルを提示し、次いで理論枠組として依拠するエスピン-アンデルセンの比較福祉レジーム論=3類型論の意義を検討した。次にエスピン-アンデルセンの比較福祉レジ-ム諭ではハイプリッド型としてとらえられた日本の福祉レジームを国際比較の中でより適切に位置づけるために、独自の分析のキー概念、視点、モデルなどを用いて分析した結果「日本型福祉社会」は企業セクターにおける「企業中心社会」と家族セクターにおける「家父長制的ジェンダー関係」という要因の制度的補完関係によって基礎づけられでいることをあきらかにした。そして2000年度から導入された介護保険制度をとりあげ、比較福祉レジーム論に照らしながら、その制度の導入が日本型福祉社会にいかなるインパクトを与えたのかを検討し、その結果現局面では福祉レジームとしては社会民主主義型への道にはほど遠く、実際には自由主義的側面がより強化されるとともに当初その払拭が目指された保守主義的要素も再編されるに止まっていることをあきらかにした。 本研究と関連して福祉国家の前提としての国民国家が経済のグローバル化でどのように変化したのか、そして重層化した政治空間の下で新たな公共空間の創造の可能性はあるか、といった問題も検討した。今後2l世紀の重要課題である環境の問題も視野に入れ「持続可能な福祉社会」の可能性、というテーマで今回の研究を発展させていきたい。
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