19世紀末から両大戦間期のイギリスを中心に、経済学者・官僚と政策形成の関わりを文献資料にもとづいて実証的に解明する作業を継続した。また関連領域のイギリス、その他の国の研究者との交流・意見交換も積極的に継続した。論文「救貧法から福祉国家へ-世紀転換期の貧困・失業問題と経済学者・官僚」では、19世紀末の貧困および失業問題の認識から20世紀初頭の社会福祉立法に至る過程を、経済思想と制度に即して明らかにしようとした。とりわけ、商務省の「理性主義的官僚」リュエリン・スミスとベヴァリッジの研究を深め、彼らの思想と行動をマーシャルやピグー、ウェッブ夫妻との関係を考慮しながら、職業紹介所法、失業保険法の成立過程に即して解明した。また、'Alfred Marshall on Britain's Industrial Leadership'では、国際的な産業覇権の交替期に生きたマーシャルが「イギリスの産業上の主導権」という政策課題にどのような処方箋を与えようとしたかを、マーシャルが関係した政府公文書、『産業と商業』などを中心に考察した。イギリス産業の現状認識、産業組織・企業組織、企業者・経営者、国際貿易の財政政策などに関するマーシャルの見解を詳細に吟味し、1.ドイツやアメリカのカルテル、トラスト、大企業経済が興隆するなかで、マーシャルがイギリスの経験をもとに考えたイギリスがとるべきcooperationを基礎とする産業組織・企業組織のあり方、2.チェンバレンと彼を支持する歴史学派の関税改革に対抗するマーシャルの自由貿易論および政策・政治への彼のスタンスの取り方、などを解明しようとした。
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