研究概要 |
本研究の対象は,個人の持つ情報が個人間で独立であるという条件の下で,現在まで同値だとされてきた4タイプのオークションにおいて,同一の対象物に対して一定の方向性を持って異なる価格が生じる現象を,理論と実験の両側面から捕らえようとするものである。今まで実験経済学の分野では選択行動と市場の実験研究は独立な研究テーマであったが,本研究ではその直接的関係を理論的に抽出するのみならず,選択行動と市場での価格提示行動との両側面を,同一被験者を使って実験することにより,その関係を直接検証しようという新しい試みである。 理論面においては,本研究代表者やNeilsonの研究などではBetweennnessを満たしている特定の効用関数を使っての分析が行われたのに対して,本研究では単調性のみを要求する程度の一般性の高い効用環境においても,Allais型を十分条件として特徴付けることが知られているHypothesisII(Machina(1982))が,同値とされるオークションルール間で異なる価格を生み出す十分条件でもあることを示した。また一方,Neilsonの研究とは異なり,Betweennnessを満たす効用関数環境においては,HypothesisIIより弱い条件でも説明できることを明らかにした。 理論分析を受けて行ったオークション実験ではまず,被験者人口の約1/4がEU保持者であり,残りの大多数をAllais型が占めることを確認した。その上で,Allais型とEU型ではオークションにおける入札行動に明らかに差があること,更にその差は理論仮説に対応することを確認した。 しかし新たな発見として,Allais型の被験者の中に,HypothesisIIの理論的帰結である行動とは異なり,かつ定性的な行動をする無視できない一群の存在が,特定の実験環境で確認された。これはHypothesisIIがAllais型行動の十分条件であり,必要条件でないことから起因すると考え,本研究は異なる十分条件を提示する最初の一歩を踏み出した。今後一層の精緻化を追求したい。
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