平成11年度は研究計画に準じて次のような課題に取り組んだ。第一に地域経済統合の成果を検証する前提として、理論モデルのラテンアメリカ地域における経済統合への適用可能性を探る研究。第二に(新)制度主義学派による開発政策(市場と政府の関係)評価の整理・検討。第三にアジア地域における開発政策とその挫折の経緯と80年代のラテンアメリカ地域の失敗との比較検討。第四に世界経済の構造変動に関するの諸議論の検討、である。 以上により、今後の研究継続の基盤として獲得した成果は以下のようにまとめられる。第一に、近年の新経済地理学を利用した経済統合モデルは、グローバリゼーション、すなわち世界レベルでの統合と、地域レベルでの統合の同じ進展という事態を説明可能であり、そのことはラテンアメリカ地域においても適用可能であることである。第二に、アジアにおける通貨・金融危機の経験は、新制度主義学派によって評価されつつあった開発への固有のシステムを危機に陥らせていること。第三に、80年代のラテンアメリカと90年代後半の東アジアの危機に共通する要素は、各社会に固有の制度的前提に基づいた開発の政治経済システムが、世界経済の変化=グローバリゼーション過程に適応できなかった事に見られる点である。ただ、最後のものに関しては、グローバリゼーション過程の急激さが、多大な社会的・政治的摩擦がともなう適応を不可能にしている側面も重視しなければならない。各国の制度変化の速度と世界経済の変化速度にギャップがあり、これをどちらにあわせて調整すべきかということが今後の重要な検討課題となる。特に途上国の場合、そのような摩擦を調整する力が弱いのであるが、第一の成果からは、その力の強化に地域経済統合は貢献しうる点も確認できている。
|