本研究では、経済開発論および地域経済統合理論を用い、グローバル化する現代世界経済下での、地域経済統合の可能性と限界について、ラテンアメリカという地域的コンテキストを踏まえながら接近した。同地域における地域経済統合は、新自由主義的開発政策への転換と軌を一にして再活性化した。本研究では、この同時性に着目しつつ、新自由主義的開発戦略のもつ限界をも意識しながら進めた。対象範囲の限定性などから十分な実証的根拠を与える点では課題を残しているが、その成果は以下のとおりである。第1に地域経済統合は、それが創る市場の歪曲によって域内の経済開発の推進を図る政策である。その成否は、この差別がもたらす動態的開発効果と静態的非効率のバランスによって決まる。第2に、NAFTAとMERCOSURは、異なる戦略によって統合の非効率に対処しようとしている。NAFTAでは、最先進国との統合によって非効率(貿易転換効果)を最小化させるとともに、比較優位構造の高度化を達成している。MERCOSURは域内水平分業の創出をつうじて動態的な規模の経済を発生させることにより静態的非効率を克服しようとしている。第3に、これまでのところNAFTAがMERCOSURよりもパフォーマンスが優れている。ただし、NAFTAは域内に対しては市場主義的色彩が強く、政治社会的摩擦をひき起こしやすい。また域内先進国経済への依存の深化は、経済好循環時には障害となりにくいが、下降循環において持続可能性が試されることになる。第4に、MERCOSURにおいては、統合成果と負担の配分が問題となる。特に加盟各国はいまだ不安定な経済状態を抱えており、統合推進目標と国内経済均衡(安定)目標が背反する状況下で、統合の静態的(短期的)非効率に耐えるのは困難である。特に為替レートの安定化は、動態的(長期的)成果が獲得できるような安定的な統合過程の進展のためには決定的に重要である。
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