本研究では、ある企業の人事ファイルデータを中心に、企業の採用政策と技能形成に関する研究を行った。特に、注目したのは、昇進昇格といった、企業ヒエラルキー内のタテの移動と、事業所・部署間の水平的異動の関連、さらにこれらが、新卒・中途採用の間でどのように異なるか、である。主な分析結果を以下にまとめる。 (1)定期採用に比べて中途採用者は、概して多様な技能蓄積を可能にする水平的異動の頻度や幅が小さく、それがタテの昇進・昇格を定期採用に比べ難しくする大きな要因となっている。同じ傾向は、大学卒とそれ以下の学歴を持つ従業員の間の昇進・昇格の格差についても見られる。 (2)水平的異動は、若年時には、頻度が高く、機能的にみて比較的狭い範囲の隣接部署への異動が中心だが、経験年数の増加と共に頻度は落ち、他方異動の範囲は広がる (3)水平的異動の技能形成に果たす役割は経験年数と共に減衰する (4)在籍部署の人員削減やリストラは、その後の昇進確率に負の影響を与えるが、その影響は特に、若年時に大きく、これは、在籍部署の成果が、構成員の能力判定のシグナルとして機能していることを推測させる (5)定期・中途採用者の昇進成果の格差は、主に、採用時の人的資本の異質性とそれを反映した異動・昇進政策における区別により説明される (6)定期・中途を問わず、現資格への昇進が短期の内に実現した者の方が、将来の昇進確率が高くなるという、いわゆる「特急組み」効果が有意に観察できる。
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