本年度は、研究の初年度であり、ニュー・ディール期およびそれに先立つ1920年代アメリカにおける経済思想の展開過程について、(1)研究史の調査と収集、(2)コモンズ、タグウェル、ハンセン等の著作および伝記的資料の調査と収集、(3)以上の調査に基づくデータ・ベースの作成、この3つの作業が中心であった。 したがって、新たに発見した知見はごく限られたものであるが、おおよそ以下の論点が明らかになったので、経済学史学会全国大会では「ヴェブレンにおける制度進化論の累積的構造」、同西南部会では「コモンズとニュー・ディール改革思想-社会保障を中心に」という論題の下に、主として以下の2点を報告した。 (1)ヴェブレンがアメリカの経済学に及ぼした影響は、ニュー・ディール改革思想の形成への刺激という点で見ると、通説以上に深く、しかも広いこと。特に、社会進化を人間の志向習憤の変化と説明した点が、第一次世界大戦後の新しい経済社会環境に対して意識的・主体的に適応しようと模索していた若い経済学者を惹きつけたこと。(2)コモンズは、失業保険=社会保障を「内部化原理」にもとづいて実現しようと模索していたが、景気変動が労働者に及ぼす影響の考察・対策の研究を通じて、中央銀行による通貨価値安定を国民経済視点から行う必要性を強調した。弟子であるハンセンの仕事は、この延長線上にあると見なしうる。
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