本年度は、研究の第2年度にあたり、昨年に続いてアメリカ経済思想史関係の第一次資料を内外の大学図書館で調査・収集しつつ、コモンズの経済学についてまとめ、進化経済学会で報告した。 (1) 東京大学、一橋大学、京都大学図書館でコモンズ、タグウェル、ハンセンの著書や論文、さらに、彼らにかんする二次的研究書を調査・収集し、アルバイトの助けを得つつ整理した。 (2) 夏休みを利用し、ハーバード大学古文書館およびコロンビア大学古文書館で、ハンセン文庫、ヤング文庫、ヴエブレン文庫、J.M.クラーク文庫、ドーフマン文庫の手稿・手紙を閲覧し、収集した。興味深い資料が多かったが、なお論文にまとめるには時間不足であり、来年度、再度調査する予定である。 (3) 進化経済学会オータム・コンファレンス(2000年9月9日)で発表した「コモンズにおける意志の理論と進化」の要旨は以下の通りである。 コモンズの制度進化論は、希少性を基本的な原理・推進力とする市場取引におけるワーキンダ・ルール=習慣の「人為的淘汰」の理論として組み立てられている。その限りでは、すでに多くの論者が指摘してきたように、私有財産社会を徹底的な個人主義の哲学に基づいて、ゲーム論的世界と解釈しようとするコース・ノース・ウィリアムソン流の個人主義的進化論、つまりハイエク流の「自制的秩序」形成に見られるような「新制度経済学」とコモンズの制度経済学は、大きな共通点を持つ。だが、コモンズの特徴は、売買取引、経営取引、割り当て取引のうち、新制度学派の視野には含まれない政府による「割り当て取引」の役割がますます重要になる、と主張したことにある。市場の組織化が遅れた農業における「農業の管理」、中央銀行による「信用の管理」、「資本-労働の管理」、これはアメリカ民主主義の理念にしたがって管理されない限り、社会主義かファシズムに取って代わられる、という見通しに基づく展望であり、その意味で、ニューディール経済思想の典型の一つになった。
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