関税同盟は加盟国と非加盟国との間に差別的な貿易政策を行うものである。加盟国間の関税を撤廃し自由貿易を実現する一方、加盟国は非加盟国に対して共通の関税を課す。関税同盟に至る貿易自由化の様々な段階の理論的分析が積み重ねられてきた。伝統的には完全競争的市場を前提とした一般均衡分析が中心であったが、近年になり不完全競争的な市場構造に基づく研究が活発になっている。 本年度の研究においては、まず、3国、2財、1生産要素モデルに不完全競争市場(国際寡占市場)を導入し、不完全競争財を残りの2国から輸入する輸入国が一方の輸出国にのみ数量規制を課し、もう1国とは自由貿易を行う差別的な数量規制政策を実施しているモデルを考える。各企業はCournot的行動を取る。この差別的数量規制が緩和され部分的な市場の自由化が行われた場合の、政策実施国とそれぞれの貿易相手国における独占企業の行動と利潤、各国の社会的厚生に及ぼす効果を比較静学により分析した。 不完全競争下の貿易政策は部分均衡分析によるものが中心であり、そこでは市場構造についての仮定と同様に、逆需要関数の特徴(需要曲線の曲率)や限界費用の特徴が、その結論に影響を与える。上記の分析ではかなり一般的な需要条件を設定した。その結果、規制の緩和が与える影響は需要の特徴と各企業が占めるマーケットシェアに依存して、従来の研究では得られなかった結論が得られることが明かとなった。これらの結論は、均衡解の安定性を満たしながら、緩い条件の下で一般的に用いられるCES型あるいはquasi-linear型の効用関数の下で成立する。 さらに、差別的な関税政策の部分的緩和の効果についても、現在分析中である。
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