1.経済危機と所得分配に関する文献サーベイを行うと同時に、所得分布統計・貧困統計・雇用統計を収集し、現状を分析した。その結果、タイでは経済の回復とともに雇用情勢に改善の兆しが見られることが明らかとなった。所得分配に関しては平等化したことを示す結果と不平等化したことを示す両方の結果が得られた。なぜこのような結果になるのかについては今後の課題である。タイの貧困問題については、経済危機の影響がそれほど大きくはならなかったことを所得分布形から説明した。また、タイの頻繁な労働移動はショックを緩和する役割を果たすことを示した。この点は、アマルティア・センの言う潜在能力と自由に焦点を当てた不平等の分析が有効であることを示唆している。フィリピンについては貧困世帯をモニターするシステムが整ってきている一方で、相互の整合性を欠き、時系列分析を行えないというようなことも起ってきている。マレーシアの所得分配については、限られた既存のデータをもとに所得分布の推計を行った。池本による既存の推計に比べて良好な結果が得られた。ただし、マレーシアについては最近のデータはさらに限られた情報しか公表されておらず、その推計は今後の課題である。 2.フィリピン・タイで現地調査を行い、本研究のこれまでの成果を発表し、意見交換を行った。各国の統計局では、統計に対するニーズの増大に対し、いかに対応するかに追われている。日本の経験を紹介するとともに、アドホックな調査を繰り返すのではなく継続性のある統計調査を充実するよう提言を行った。また、それぞれの統計局が発表している統計書に含まれる問題点を指摘し、改善策を提示した。 3.国内では、99年11月5・6日に北九州市で開かれた東アジア経済学会などの合同学会で寺崎がタイ・フィリピンの所得分布と貧困の現状について発表を行った。
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