本研究の目的は、1997年7月にタイ・バーツの変動制への移行によって始まったアジア経済危機が、東南アジア諸国の所得分配と貧困に及ぼした影響を明らかにするとともに、経済危機のような急激な変化が所得分配や貧困に及ぼす影響を素早く知るための統計調査のあり方や、所得分配の変化を推計する方法について検討することにあった。 経済危機が始まったタイについては、1986年以降、2年ごとにSocio-Economic Surveyが行われ、タイが80年代後半に高度成長軌道に乗り、90年代前半にバブル化し、やがてそれが崩壊する98年までの期間に所得分配がどのように変化し、それがマクロ経済の変化によってどのように説明できるかを検討した。しかし、99年に緊急に行われた調査は、危機後に都市から地方への移動によって急激な構造変動が生じていることを示しており、この点について地域間格差の観点から分析を行った。 タイの他、フィリピン、インドネシア、マレーシア、シンガポール、ラオスについて経済危機の影響を適確に捉えるような統計調査のあり方についても同様の分析を行った。インドネシアやタイのようにIMFの支援を受け入れた国々については統計データの迅速な公開が求められており、統計データは比較的入手が容易である。しかし、マレーシアについては、所得分配に関する統計データは国内の民族間の対立に配慮してほとんど公開されていない。そこで本研究では、少ない情報から所得分布を推計するという手法を試みた。 本研究では、時間的な制約から暫定的な統計データを用いて分析を行ってきた。今後、最終的な続計は新しいデータが出てきたとき、本研究の結果を再検討していく予定である。
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