研究概要 |
本研究では、イノベーションを強化するための日本の知的財産権制度(特許制度を中心に)の今後のあり方について理論的かつ実証的に研究することを目的として、以下の三つの研究テーマを設定して研究を行ってきた。最初は知的財産権の強さとイノベーションの関係についての研究であり、日本におけるライセンス契約の動向の実証的な分析、累積的な技術革新における知的財産権の役割についての理論的な分析、クロスライセンスの契約条件についての理論的な研究を行った。最初の研究から研究開発集約度、排他権、商標なとの要因変化をコントロールしても、知的財産制度が強化された1995年以降、日本市場でのライセンス料金は有意に、しかも研究開発集約型の産業でより大きく上昇したことを見出した。第二は、知的財産権の国際的な側面についての研究であり、知的財産権の国際的な消尽が、研究開発なとに及ぼす経済的な影響を分析した。特許権による並行輸入の阻止は、特許保有企業が課している垂直的な地域制限のエンフォースメントの手段としてのみ位置づけられるべきであることを明らかにしている。また市場経済移行国や発展途上国における民営化過程における知的財産権の有効な活用について研究の成果も発表した。第三は、日本の知的財産政策の今後についての研究で、技術標準の革新のためのパテント・プールについての研究、知的財産保護における損害賠償制度および権利設定のあり方についての研究を行った。最初の研究から、(1)どのような条件において技術標準の革新のために企業間競争ではなく企業間協力が必要になるのか、(2)アウトサイダー企業の登場など企業間協力が円滑に進まないことがある原因は何か、その解決策は何か、(3)パテント・プールが技術標準の更なる革新への企業間競争を阻書しないためにはどのような条件が必要なのかを,理論と実際のパテント・プールの事例によりながら明らかにした。
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