本年度は、本研究の最終年度であるので、これまで収集した資料とこれまでの研究の成果に基づいて、論文執筆の努力を行った。それは『経済研究』第52巻第4号(2001年10月号)に「ハンガリーにおける外国直接投資(FDI)再論」として発表されている。 最終段階でハンガリーを主たる分析対象としたのは、ハンガリーが1990年代にFDIの流入を移行経済の中で最も多く享受し、その結果巨大な外資系企業セクターが形成された典型的なケースとなったことが、研究の過程で明らかになったからである。この論文では、FDIのハンガリーへの流入状況が詳しく分析され、国際収支、外国貿易、経済構造に対するその影響が解明されている。そして、外資系企業セクターとハンガリー人企業セクターへのハンガリー経済の分裂という、深刻な二重構造の問題の存在を解明することが出来た。外資導入に成功したハンガリーが、市場経済化の観点からは優等生であるにもかかわらず、自立した国民経済の確立という観点から見ると、深刻なほどに外資依存を強めたことは、外資導入が市場経済化のための万能薬ではなく、その注意深い選択的導入が必要なことを示している。この点は重要な政策的含意であり、ロシアやブルガリアのように、外資流入の不足に悩む国の場合も、今後単なるその促進政策だけでなく、バランスのとれた経済発展を追求するためには、良く考え抜いた合理的外資導入政策が必要なことを意味する。以上の諸点を明らかに出来たことは、本研究の成果であり、私の関与しているブルガリア経済省に対する「重要政策中枢支援」(産業政策)プロジェクトのためにも有益であった。また、ポートフォリオ投資の危険についてロシアの経験を解明することが出来た。
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