研究概要 |
「労働組合は、労働者の不満を雇用者に伝え(Voice)、問題解決に貢献することにより、辞職(Exit)を減らす」という労働組合の発言効果仮説(Freeman and Medoff 1979,1984)は、米国の熟年男性については、実証的に支持されている。しかし、発言効果の男女差の実証研究は、未だ無い。この研究は、この文献上のギャップを埋めようとするものである。この研究の独創的な点の1つは、組合の男女構成比が組合間で異なることに着目し、これから発言効果を識別しようということにある。この研究では、発言効果仮説を「ある労働者にとっての組合の発言効果は、彼(彼女)のジェンダー・グループが、彼(彼女)の属する組合の中で占めるシェアが高くなるほど強くなる」とし、これを検証した。ジョブの持続時間、離職の原因、時間を追って変化し得る労働者、ジョブ、環境の属性、組合ダミー変数に関するデータをNational Longitudinal Survey or Youth(NLSY)から構築した。シェア・ダミー(労働者iの働く産業・職業における組合員の中で、iのジェンダー・グループが過半数を占めるか否かを示すダミー変数を定義し、これに組合ダミーを交差させたもの)をPanel Study of Income Dynamics(PSID)とCurrent Population Survey(CPS)とから構築した。記述統計分析からは、男性の間の発言効果が女性の間のそれよりも強いことが観察された。しかし、諸要因と組合ダミーとシェア・ダミーの内数変数問題を考慮した,辞職のハザードモデルをセミ・パラメトリック最大尤度法により推定し、仮設検定を行った結果、女性の間でのみ発言効条が存在することが明らかになった。 新たな知見を米国東部経済学会で発表し、数々の有益なコメントを得た。特に、組合組織率の公共部門での上昇と民間部門での下落といった、不可思議、かつ、重要な現象が、この研究のアプローチにより解明できる可能性を指摘された。
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