研究概要 |
国民経済における長期的な成長動向を展望する際,質の高い学校教育や職場訓練を通じた労働者の技能の向上,さらにそうした労働者によって蓄積される技術知識ストックの規模および技術進歩のスピードが,種々の成長促進的な経済要因の中でも特に重要であることは言うまでもないことである。他方、経済成長に伴って環境汚染という深刻な問題も生起することになる。本研究では、イノベーションを伴う状況のもとで環境と内生的成長に関連する種々の政策問題が理論的・実証的に検討される。主たる研究実績を以下に纏めておくことにする。 まず、主たる理論分析としては、R&Dやイノベーションを伴う内生的経済成長モデルに環境汚染の問題を統合し,持続的成長を可能にするような環境政策について検討し、有意義な帰結を導出している。短期的には成長を促進するような研究活動への助成と環境保全税の採用という2つの政策を組み合わせることが必要となり、長期的には、汚染量を抑制しながら成長率を維持する経済システムを構築する必要性を厳密な数理的フレームワークのもとで論じている。さらに、R&D活動と特許の問題、イノベーションと人的資本の蓄積の問題、再生可能資源の動態的システムと成長モデルを統合した一般的なシステムの構築を行い、より広い角度から環境と成長の政策問題を検討している。 次に実証分析としては、クズネッツの逆U字仮説について、アジア太平洋諸国における経済発展に伴う所得分配と環境問題の2つの側面から実証分析を試みた。回帰分析の結果・所得分配に関するクズネッツ仮説については、所得レベルを示す変数のパラメータの安定性は低く、他の説明変数を付け加えるなど回帰式を変えれば仮説は支持されなくなるということを明らかにしている。この点については、大気汚染を示す二酸化炭素排出量や水質汚染を示す生化学的酸素要求量における環境クズネッツ曲線のクロス・カントリー分析についても同様であり、常に支持されるわけではないとする結果が得られた。今後の更なる経済成長における平等な所得分配、また工業化に伴って二酸化炭素などの環境汚染物質の排出削減にどう取り組んでいくかが重要な政策課題になることを明らかにしている。さらに、アジア太平洋地域における経済発展と所得分配、成長会計の手法による移行動学の研究OLGモデルを利用した人的資本と成長の理論的・実証的分析等も行い、種々の有意義な帰結を導出した。
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