今年度は、以下のような点を明らかにした。 (1)開発プロジェクト評価と発展プロセスへのオルターナティブな視点 世銀等のオーソドックスな開発プロジェクト評価では、従来、狭義の経済学的評価、すなわち「費用-便益」分析が重視されてきたが、先進国と政治・経済・社会の状況が異なる途上地域における評価としてはそれだけでは不十分である。支配的見解ではさして重視されないものの、個々のプロジェクトには固有の特性があり、それが発展に向けての学習効果、態度の変化、制度変革を生み出すこともあれば、これまた固有の特性を有する社会の反発を引き起こし、発展どころか混乱を導く場合もあるという点がもっと注目されねばならない。プロジェクトの「副次効果」を明確に分析対象とし、発展プロセスへの視点を豊富化することで、開発・市場移行のミクロの局面においても具体的オルターナティブを提示することが可能となる。 (2)国際河川メコン川の水利用をめぐる「ソフトウェア」作りの必要性 メコン川は、開発・市場移行の途上にあるインドシナの各国にとって残された最大の水資源であるが、水資源の利用・管理をめぐって、なんら制度的取り決めのないまま各国が自由に国益を追求すれば、対立は必至である。現在、流域の大国、国際機関、流域に触手を伸ばす先進国などにより、ダム建設をはじめ数々のプロジェクトが計画されているが、持続可能な水利用のためには、流域国家間および流域国内で、合意形成手続きや法的枠組みといった「水をめぐるソフトウェア」を作り上げる必要がある。
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