フィリピンは1983年の対外債務危機以降、厳しいIMFの経済管理のもとに構造調整に取り組むが、10年にも及ぶ経済停滞を免れることができなかった。本研究の目的はアジア通貨危機以降のASEAN経済が長期の経済停滞に陥ることなく、必要な構造調整を行い、早期に持続的経済成長に乗るために、何をフィリピンの経験から学ぶことができるのかを考察することある。 本年度は第一に、1983年以降のフィリピン経済の動向(GDP成長率、各産業の成長率、個人消費支出、政府消費、財政赤字、資本形成率、失業率等)をサーベィし、1984年以降の数度にわたるIMFコンデショナリティの内容とを対応させて、IMFコンデショナリティとフィリピン経済の停滞の関係を考察した。第二に今回のアジア通貨危機の際にタイ、インドネシアに与えられたIMFのコンデショナリティと、1984年にフィリピンに与えられたコンディショナリティとの比較を行った。第三に今回のアジア通貨危機と83年の対外債務危機時における国際金融環境の変化、ASEAN経済自体の変化踏まえて、IMFコンデショナリティの及ぼすインパクトの相違について考察した。第四にフィリピン大学経済学部とタイのNIDA(国立開発行政研究所)の開発経済学大学院を訪問し、今回のアジア通貨危機におけるIMFコンデショナリティの評価について、意見交換を行った。第五にアジア通貨危機がASEAN各国に与えた打撃とIMFコンデショナリティの評価に関する内外の学術論文、雑誌記事等を広く収集した。次年度は本年度の集めたデータや資料、論文等を踏まえ、フィリピンとタイでの現地研究者との意見交換も参考にして、フィリピン経済再建過程におけるIMFコンデショナリティの再評価を行うとともに、タイやインドネシアにたいする今回のIMFコンデショナリティの再評価の作業に入る予定である。
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