今年度の研究では、特定の中小企業が保有する生産技術のうち、当該企業でないと提供できない基幹的な技術に基づいて機能部品・素材を生産する意味とは何かを、事例的・理論的に類型化しようと試みた。素形材や素形材関連の製造企業の中には、たしかに、特殊な機械でも出ない加工精度等を短期間に出せる術(腕)を保有している企業が多い。機械加工の後の「仕上げ」や「調整」などでは、機械で実現できない高精度の達成が求められるため、そうした加工精度等を出すことができる特殊技能者の人的能力に依存した面がある。だが、生産上の採算面等から機械化や自動化が困難なため機械装置への熟練技能の代替が少ない事業を除くと、それらのうちのいくつかの加工作業では、生産技術向上の手段として高性能のME機械設備の導入によって熟練技能が機械装置に「組み込まれ」、同業他社との技術力の差がなくなりつつある。むしろそれ以外に、試作や特殊加工のみの発注や単品レベルに近い小ロット・個別仕様発注でもそれらを全体として所定の仕事量に「まとめる」ことができるなど、発注企業の要請事項を、所定の「生産の流れ」を作る形に再編し直し仕事に見通しをたてられることが、経営上も生産遂行上も日常的には極めて重要である。設計図、特に設計者の意図を読みとる能力とそれを手際よく実現する能力などが製造ノウハウの中核かもしれない。つまり、技術面での強みといっても、特殊・狭隘とみなしうる事業領域において他の追随を許さない技術的裏付けを伴った事業展開だけでなく、経済環境変化や顧客要請に対する短期間での機敏な適応を基礎とする事業展開があることも整理できた。
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